S.Y 先生 放射線科
私は2012年6月よりおよそ2ヶ月間VA-NHO programを通してアメリカ、ロサンゼルスのVA hospitalに行きました。
滞在中、放射線診断科と感染症内科で研修しました。先進性という意味では日本の医療とほとんど変わりはありませんでしたが、その中で特に感じたのはアメリカと日本の医療制度の違いでした。
一つ目が医療スタッフの数の多さです。
例えば、放射線診断科で言えば、一人の医師が、造影剤の注射であったり、あらゆる部位の読影、核医学やIVRまでこなしている日本とは異なり、アメリカの医師は、自分の専門部位の読影業務だけしていればよく時間的余裕があるようでした。これは主にコメディカルも含めたスタッフが多いからできることの様です。医療費の高騰や専門性が高すぎることによる弊害などのデメリットの方が大きいと考えていますが、この中で良いと感じたのは教育に時間が十分に割かれていることだと感じました。また、アメリカでは教育を行うことにそれなりの評価が与えられてるため、教育に対するモチベーションがあるのだと感じました。
日本でも全く同じように真似する必要はないと思いますが、コメディカルのできる業務を増やそうという今の流れの中でできた余裕を是非教育にあてて、教育をする医師を高く評価するシステムが導入されることを強く願います。
二つ目は無駄な検査が少ないということです。
画像に関していえば、日本ではCTの異常所見がある率は低いですが、アメリカで撮影されるCTの多くは異常があり、MRIにいたってはほとんどすべてに異常所見が見られました。私がお世話になったバラック先生は、普段は温厚であるのに3日前に胸部CTを撮っていた患者が再度撮影していた時には、主治医に電話をして怒った様子で撮影した理由や必要性を聞いた上で、今後はCXRでfollowをし、このような無駄な検査はしないようにとおっしゃっていました。
この理由は、医師のコスト意識の高いからであると思います。なぜコスト意識が高いかのを考えてみると、日本のように皆保険制度がないため、患者自身のコスト意識が高いのが一因だと考えています。VA hospitalは公的病院であり退役軍人である患者さんの負担はほとんどありませんしメディケアなどもありますが、誤解を恐れずに端的に言えば、アメリカではお金がある人ほど選べる医療の選択肢が多いということです。アメリカでは個人の破産の理由第一位が病気になることだとか、心筋梗塞で運ばれた意識不明のお金のない患者が、一刻を争う状況にもかかわらず、払えないならCABGの手術を研修医がすることになるがどうするかと妻に聞くといった信じられない様な話も聞きました。
もちろんこのような状況は、まったく許容出来るものではありません。健康に生きることは生存権に含まれているわけで、医療は健康に生きるために不可欠なものです。ですから、日本の皆保険制度は素晴らしいものです。しかしながら、高齢者社会になっていく状況で、コストを考えない医療をしていれば破綻するのは明らかです。その先にあるのがアメリカのような医療の可能性があると思います。患者側の希望もあるため、単純に無駄な検査を減らすことは難しいかもしれませんが、啓蒙活動を含めて、医療者および患者のコスト意識を高めることで、現在の医療制度を維持できると信じています。
三つ目は、病院の規模が大きいということです。
VA hospitalはそこまで大きな病院ではありませんが、アメリカの多くの病院は非常に大きいものばかりです。それには、当然スケールメリットがある訳で、一見、患者にもメリットがあるように思えます。教育により良い医師が生まれる、手術数を多く経験した医師がいる、良い研究ができる。全て患者のメリットです。
ところで、人口1000人あたりの医師数は日本で2.1人、アメリカは2.7人です。あまり変わりません。例えば、規模を大きくするために市民病院3つを1つにまとめてしまえばどうなるでしょう。単純に言えば、最悪の場合3つ先の市民病院まで大きな病院がないということです。幸い日本の医師は勤勉で、アメリカの様なスケールメリットがなくても世界トップレベルの医療を維持できています。確かに、臨床研究はアメリカに劣る面は否めませんが、臨床研究のために利便性を犠牲にしてまで真似する必要があるかは疑問です。
このように実際にアメリカでの体験を通して、日本の医療制度は世界でも有数の優れたものであることを確認するとともに、問題点も見出せました。このような良い機会を頂いたことをこころより感謝申し上げます。
登録日: 2013年9月26日 / 更新日: 2013年10月3日