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H.N 先生 神経内科

  

 2012年10月15日から11月30日まで、NHO-VA programに参加しました。私は神経内科医ですので、VAでは神経内科に関連したgeneral neurology、epilepsy、movement disorder、そしてrehabilitationの4部門を主に見学しました。外来、病棟の回診、カンファレンスなどを見学して来ました。この研修に参加するにあたって、日本の病院とVAの医療ではどのような違いがあるか、に興味を持っていました。実際にVAで研修を行ってきましたが、神経内科は特殊な手技・治療は少ない科であり、患者さんの問診、神経学的診察、各種検査の手順やその評価、治療内容、などは私がこれまで見てきた日本の病院と比較して大きな違いはありませんでした。やはり違いが大きかったのはシステムの違いでした。

 まず神経内科の中での専門分野の細分化に違いがありました。日本でも大学病院や、私の勤務している宇多野病院のような神経内科の規模が大きな病院では、神経内科の中で脳血管障害、変性疾患、免疫疾患、てんかん、など複数の分野の専門家が居ます。しかし専門外の分野の症例を全く診ない病院は少ないと思います。神経変性疾患であるパーキンソン病が専門のドクターでも、神経免疫疾患である多発性硬化症の患者さんも診療している、などです。これに対してVAでは少なくとも神経内科の関連部門においては、ある病気の患者さんはその分野の専門家以外が外来診察を行ったり、検査を行うことはほとんど無く、より細分化が顕著と感じました。これは患者さんにとっては望ましいことかもしれません。日本では非専門家による最善ではない診断・治療が行われるケースが一部で存在すると思われるからです。医者にとっても自分の専門の分野により集中することができ、より臨床経験や研究活動を高める上でも良いのかもしれません。しかし仮に神経内科全般を広く診るような職場に異動するようなことがある場合、対応が難しい場合もあるのではと感じました。

 実際の診療では病棟よりも外来での診療で驚くことが多かったです。まず、1日の外来で1人の先生が担当する患者さんの数が少なく、1人の患者さんにかける時間が多く、通院の間隔が長いということです。いくつかの科の外来を見学しましたが、1日に1人のドクターが担当する患者さんは5人以下のことも少なくなく、ほとんどが10人以下でした。そして初診ではない1人の患者さんの問診・診察にも1時間以上かけることも少なくありません。通院期間は日本では3ヶ月ごとでも長い方だと思いますが、VAでは半年や1年ごとのケースも少なくありませんでした。これらの理由ですが、まずVAでは患者さんが退役軍人の方のみなので、そもそもの通院患者さんの母体数が少ないのだと思います。またVAに通院しているのとは別にかかりつけ医に通院している場合も多いようであり、自宅が遠い人も多く、それにより通院の頻度が少ないことも影響しているかもしれません。またアメリカでは医療費が高いことから一般的に日本に比べ症状が軽い際は病院を受診するケースが少なく、VAでは患者さんは医療費はかからないものの元のあまり頻繁には受診しない習慣のために、通院頻度が少ないのかもしれないと思いました。患者さん一人あたりの診療時間が長いことは合計の患者さんの数が少ないこともありますが、万が一異常を見落とした際の訴訟リスクが日本よりも高いことも影響しているかもしれないと感じました。

 また、日本の外来では上級医からレジデントまでがそれぞれ単独で外来診療を行うことが多いですが、VAではレジデントおよび医学生がまず単独で問診および診察を行い、そのあとに上級医と相談の上、必要に応じて上級医が問診および診察をさらに行い、共同で病状説明を行うという流れで行われていました。これを初診のみならず再診の患者さんにも全例行なっているのは驚きました。このように必ず二人で患者さんを診ることにより、診断の見落としや、不適切な方針を防ぐ効果があると思いました。また若いドクター・医学生への教育としても効果的と感じました。しかし一人の患者さんへの時間を多く割くことができるから可能なことで、日本の病院の多くでは難しいことだと思いました。

 ほかに感じた違いは、医学生の優秀さです。研修中にUniversity of California, Los Angelesの医学生と会いましたが、彼らは神経内科の専門的な内容に関しても非常に知識が豊富で、ほとんどの方が平均的な日本の学生よりも優秀であると感じました。外来でも神経内科の専門的な問診や診察を1人で行なっており、病棟での入院患者のカンファレンスにも積極的に発言しており、とても意識が高いと感じました。

 このような日米の違いを知ることができた他に、この研修で得ることができたものとして有益であったことの一つは、病院内での臨床の生の英語を勉強できたことです。私の専門の神経内科は、診察において固有の動作を患者さんに指示したり、独特な問診をすることも多いのですが、英語でどのように表現するとより正確に意図が伝わるのか疑問を持っていました。そのような状況での自分の英語はしばしばニュアンスが異なっていたり直接的ではない表現であると感じていました。日本でも英語の診察の教科書はありますが神経内科の内容に関してはあまり多くの記載がありません。VAでの研修で様々なドクターの診察中の英語を見学できたことは、今後、日本で英語圏の患者さんの診察をする際に必ず役立つと感じます

 今後は学んできた英語を中心に、周囲の同僚に経験を伝えて行きたいと考えています。

 

 

 

登録日: 2013年9月25日 / 更新日: 2013年9月25日

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