国立病院機構帯広病院 統括診療部長 循環器内科 尾畑弘美

 現在,我が国でのペースメーカー植込患者さんは,約40万人を越えるといわれており,患者さんのQOL保持,さらには生命予後を改善しうる非常に完成度の高い医療機器となってきております.
 しかし,その歴史は浅く,日本で初めて植え込まれたのは,1963年と今から半世紀前のことでした.当時のペースメーカーは,現在使用されている植込型除細動器と比べても格段に大きく,また電池寿命も2年前後と短く,先輩先生方の植込時の苦労,また,患者さんの苦痛は計り知れないものであったと推測されます.おりしも,ガガーリンが世界初の有人宇宙飛行に成功してから2年後,日本では,いまだ真空管全盛期の時代でした.もちろん,ペースメーカーは,外国から輸入されたものでした.
                                                            

 

 当院は,北海道十勝平野の中央部に位置する帯広市(人口約17万人,産業は,畑作(豆,小麦,メークイン,長いも,ビート),お菓子の六花亭で有名です)にあり,昭和22年,国立療養所として誕生,周辺医療人口は約37万人です.周囲は,日高山脈,大雪山系,太平洋に囲まれ,近隣大都市までは,道庁所在地である札幌まで西に250km,旭川まで北に180km,釧路まで東に130kmとかなり遠く,医療圏としては,比較的出入りの少ない環境にあります.このような医療環境下,昨年暮れ,ペースメーカー植込 1500症例を達成,道東地区では一番の症例数,また,歴史があり,今回,地元新聞に掲載されました.


 当院で最初にペースメーカーが植え込まれたのは,1971年(昭和46年)と,本邦でも比較的早い時期でした(術者 心臓血管外科 故加賀谷闊前々院長).現在,当院の外来窓口に当時のペースメーカーを展示しておりますが,今使われているペースメーカーと比べると,非常に大きく中身の水銀電池が透けて見え,『エッツ! これを人の体に植え込んでいたの?』と皆さんもきっとビックリされることでしょう.それから40年弱が経過し,今回,1500例植込となりました.

 現在は,ペースメーカー機能も充実し,植込型除細動器はもとより,除細動機能付き両心室ペースメーカーも臨床使用可能となり,この数年の医学ならびに科学技術の進歩にはびっくりさせられますが,長い歴史の中で必要であるがため,患者様や先人達の苦労のもと,うまれてきたものと思われます.
 また,過去の当院での植込症例の経験は,非常に重要な臨床情報を,私達後輩医師へ伝えてくれています.当然と思われていた右室心尖部ペーシングが左室収縮同期障害を引き起こし,心不全増悪因子になりうることがわかり,H15年2月より,ペーシング部位を心尖部から右室中隔側へ変更,それから5年経過し,長期予後の面から心尖部ペーシングに優る成績が得られてきております.
 このように半世紀の間,着実に進化しているペースメーカー,しかし,それはあくまでも機械であり,患者さんのQOLを高めるべく,今後も,臨床成績を発信,また,フィードバックしながら,スタッフ一同,さらに研鑽してゆきたく存じます.

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